九州大学演劇部の番外公演(詳細)で上演しました。アイドルが大好きな後輩と共著しています。あーだこーだいっぱい話しながら作ったの楽しかったなあ。
*上演希望の際はcontactよりご連絡ください
登場人物
すだち:女、20歳の地下アイドル。
ひなこ:女、20歳のアイドル。
増田:男、29歳。役者をやっている。
社長:男、31歳。芸能事務所の社長。
アイドルの対バンのリハーサル
すだち、ひなこの順で正面を向いてパフォーマンス
それぞれのパフォーマンスの特徴
すだち:手を振ったり指さしをしたりなど、お客さんとしっかり関わるパフォーマンス(途中ですっぱいものを使う)
ひなこ:アレンジせずちゃんと踊るなど、大きなステージを意識したパフォーマンス
社長:はい、リハ終了ですー
本番は2時間後になりまーす
増田:おつかれー
社長:おお、増田
増田:ひさしぶりだな
社長:いつぶり?
増田:この前の芝居観にきてくれた時だよな
社長:あれが・・・え、もう半年前か、
お前らさすがにもうちょっと公演打てよ
増田:辞めたやつが言うな
お前が戻ってきたらもっとやりようあるって
社長:忙しいんだ、勘弁してくれ
増田:まあ、あのひにゃんの所属事務所の社長様ですからねー
社長:おう、敬え敬え
増田:新進気鋭の地下アイドルをプロデュースするのは敏腕若手社長!
社長:「地下」じゃねえから
増田:え?
社長:ひにゃんは「地下」アイドルじゃねえから
増田:ああ(笑う)
地下も面白いけどな
社長:・・・すだちちゃんって、うちのライブ出るのはじめてだよな
増田:うん、ぼちぼちファンも増えてるから
社長:なんかお前ほとんどあの子のマネージャーだな
増田:んー、そうだな
あいつ俺いないと全然ダメだし
社長:もうあの子もハタチじゃん
増田:そうだけど
まあ、俺がこの世界に引き入れたし、保護者代わりだよな
社長:ふーん
間
すだち:ますだくーん(ハケから声だけ)
増田:はいはーい
すだち:ちょっと来てー
増田:(社長に笑う)
社長:おつかれ
増田、出ていく
社長:(ため息)
ひなこ、出てくる
ひなこ:おつかれさまです
珍しいですね、現場に来られるの
社長:なんか社員みんな出払っちゃって、今日は俺が
ひなこ:そうなんですか
社長:あーあ、ひさしぶりに現場出ると疲れるなー
ひなこ:おつかれさまです
社長:だからそういう塩対応ダメだって何回言ったらいいの
ひなこ:・・・ひにゃんが癒しちゃうぞ♡
社長:そうそう
今日夜、終わったあと、いい?
ひなこ:はい
社長:じゃ、そういうことで
ひなこ:場所は?
社長:俺んちでいいだろ
ひなこ:・・・
社長:何?
ひなこ:いえ、別に
社長:・・・休憩取んなくていいの?
ひなこ:控室、人が多くて
まあもう準備も終わったし
社長:なんか今日のライブ、出演者の選び方テキトーだよな
数じゃなくて質って言ってんのになー 特にあれ、すだち
ひなこ:(笑う)
社長:お前もさ、よくあんなのと一緒にやってたな
ひなこ:まあ
社長:確か・・・4年前か
ひなこ:そうでしたっけ
社長:自分のことなのになんで覚えてないんだよ
ひなこ:覚えてはいますよ
照明変化
チャイム
〈高校の教室〉
すだち:ひなこさん!
ひなこ:(怪訝な顔)
すだち:もーずっと声かけたかったんだけど、ひなこさんいっつもすぐ帰っちゃうから
あのさ、アイドル一緒にやらない?
ひなこ:・・・
すだち:あ、アイドルって言ってもテレビとかのじゃなくて地下っていうの?
けっこうすぐなれるんだよ
隣に住んでるお兄ちゃんが、あ、増田くんっていうんだけど、そういうのやってて、今度のライブに出てみるかって
お兄ちゃんって言っても兄弟じゃなくて幼馴染みたいな、あ、これは別にわかるか
増田くんってずーっと演劇やってるんだけど
なんかそのつながりで地下アイドルのライブの手伝いとかもしてて
ひなこ:罰ゲームか何か?
すだち:罰ゲーム?
ひなこ:罰ゲームで告白させられる、みたいな?
どうせそういうやつでしょ、私だまされないから
すだち:えーちがうよ
ひなこ:あ、でも罰ゲームでもなんでもないか、私もあんたもいじめられてるしね
すだち:ええ!
ひなこ:うるさっ
すだち:私っていじめられとるん?
ひなこ:自覚ないの?そういうとこでしょ
すだち:あと、ひなこさんもいじめられとるん?
ひなこ:私は別にどうでもいいけど
あんなブスたちに比べて私かわいいし
すだち:うん!すっごいかわいい!
ひなこ:(無言)
すだち:だから、一緒にアイドルやろ!
音
2人、ポーズを決める
すだちは少し変
〈二人の練習シーン〉
ひなこ:また!
すだち:うわ、ごめんね
ひなこ:下手すぎでしょ
すだち:ひなちゃんが上手すぎるんだよー
ひなこ:はい、もう一回やるよ
音
ポーズを決める
〈ライブ会場〉
2人:ありがとうございましたー!
ひなこ:このあとチェキ会やります
すだち:(以下1人で演じる)
うわあ、健一さん、また来てくださったんですかー! うれしーーーい! チェキ?えええ3枚も!
ポーズどうしよー! はい、はい、はい(3回変なポーズをする)
ありがとうー! え?アイドルじゃないって?
すだちは面白さで勝負なの! はーい、えーっと1,2,3(お金を数える)
いつもありがとうね
うわ!小林さんたちもいるじゃん! 今日のめっちゃよかったよー!(オタ芸の真似)
チェキ撮る?
えーじゃあまた次のライブ来てね、私の名前で予約するんよ! あーもうこばちゃん、ハグはなしだよーもー! ばいばーい
ひなこ:よくやれるね
すだち:なにが?
ひなこ:私絶対無理、くさいし
すだち:ひなちゃんはかわいいからねえ
ひなこ:それ関係なくない?
すだち:みんなひなちゃんがかわいいから近づけないんだよ
恐れ多いっていうの?
ひなこ:じゃあ別にかわいくなくていい
すだち:え、まじで、じゃあその顔ちょうだいよ
ひなこ:それはいや
すだち:えーー
社長:はじめまして
すだち:こんにちはー!はじめて来てくださったんですか?
社長:あー君じゃなくて
すだち:あ!ひなちゃんですね! ごめんなさい! どうぞ!
以下の台詞を言いながら、最初の社長とひなこの会話シーンの状態に戻っていく。
社長:はい、これ(名刺)
この名前、見たことある?
ああ、僕じゃなくて事務所の
よかった、がんばってるかいがあった
ああ、最近僕が社長に変わって、いろいろと努力をね
えっと、単刀直入に言うんだけど、君、うちでアイドルしない?
こんな誰でも出られるようなライブじゃなくてさ
僕の力で、君を本当のアイドルにしてみせる
そして地下の汚いやつらには絶対触らせない
握手も、チェキもなしだ
素敵だろう?
でも、それは今のままの君じゃ無理だ
アイドルにとって一番大切なこと、何かわかる?
演じることだ
偶像を、演じる
なぜかって?
演じなければ愛されないからだ
これまで、そのままの君が世界に受け入れられたことってあった?
(笑う)
でも大丈夫、僕と一緒に本当のアイドルになればいくらでも愛してもらえる
アイドルは、愛されるのが仕事だから
ひなこ:すだちは
社長:ああ、あの子
いるんだよ、ああいう地下でしか生きられない人間
まあでもあの子はここでなら輝けるんじゃない
え、もしかして離れたくないの?
そんなに好きだった?
すだち:ひなちゃーーん!がんばってねー!!(手を振る)
ひなこ:・・・嫌い
社長の携帯が鳴る
照明変化
社長:増田?何?
あー、ごめん夜は用事あるわ
いや、話はさっきしただろ(笑う)
今からちょっと打ち合わせあるからそのあとなら時間あるけど
はいはい、じゃあまた
ひなこ:増田さんって
社長:すだちのマネージャーみたいなやつ、お前会ったことあるっけ?
ひなこ:はじめてライブ出たときに、少しだけ
社長:あー、そっか
ひなこ:はい
社長:あいつなんでこの業界にいるんだろうな
芝居に集中すりゃいいのに
ひなこ:社長も昔やってたんですよね?増田さんと同じ劇団で
社長:昔、な
ひなこ:・・・あ、忙しいのに引き留めてすみません
社長:いや、いいよ。
お前の思い出話なんて珍しいしな
ひなこ:そうですかね
社長:自分の話あんまりしないじゃん
ひなこ:まあ、そうですね
意味がないので
社長:意味?
ひなこ:・・・社長って、もし私が可愛くなかったらどうしてました?
社長:それ、答え聞きたい?
ひなこ:いえ
社長:まあ、可愛くない時点でそれはお前じゃないよな
ひなこ:(笑う)
社長:てかさあ(背後のすだちを示す)
ひなこ:あ
社長:噂をすれば、だな
じゃあ俺行くわ
社長はける
すだち駆け寄る
すだち:ひにゃんちゃん、あ、ちょっと噛んだ
・・・ひさしぶりだね
やっぱりかわいい、写真ではずっと見てたんだけど
ひなこ:ほんとひさしぶりだね、すだちちゃんも元気そうで嬉しい
すだち:おおー
ひなこ:どうしたの?
すだち:なんか、ひなちゃんじゃないみたい
ひなこ:そんなことないよ。最近どう?
すだち:ファンもまあ、ぼちぼち増えてるよ
だから今回のも出れたし
ひなこ:そっか、すごいね
すだち:ひなちゃんに比べたら全然
ひなこ:いや、なんかあったかくていいよね、すだちちゃんのファンの人たち
すだち:えー前はくさいって言ってたじゃーん
ひなこ:まあそうなんだけど
なんか、いいなあって思うんだよね
すだちちゃんのファンって、
そのままのすだちちゃんのこと好きになってるでしょ
すだち:そのままの私
ひなこ:たぶん私、昔からすだちちゃんのことがうらやましかったんだと思うんだ
私そのままの自分とかわかんなくて、今もわかんないんだけど
でもなんかそのままじゃダメみたいだから言われる通りにアイドルやって
だけどすだちちゃんはずっとすだちちゃんのままで、そういうすだちちゃんのことが好きな人たちだけが集まって、すごくいいよね
なんかごめん急にこんな話して
すだち:(さえぎって)それさあ
ひなこ:うん
すだち:そのままのすだちは、くさいおじさんにしか好かれないってことだよね
ひなこ:・・・
すだち:ひなちゃんはすごいね
がんばってちゃんとしたアイドルになったんだね
ひなこ:ごめん、すだちちゃん、私そんなつもりじゃなくて
すだち:・・・私、前のひなちゃんの方が好きだったなあ
ひなこ:・・・
すだち:今日のライブって、三百人くらいだったっけ
ほとんどひにゃん目当てのお客さんらしいね
やっぱりすごいなー
増田:すだちー
すだち:はーい
増田:おお!ひにゃんだ! 俺のこと覚えてる?
ひなこ:もちろんです
増田:なんか雰囲気変わったね、大人じゃん
ひなこ:そんなことないですよ
すだち:なんか、いまマネージャーみたいになってて
ひなこ:そうなんだ
増田:こいつ一人だと何にもできないからさ
すだち:私ももう大人だからー
増田:ただのガキだろ、ひにゃんを見習え
ひなこ:あー、私メイク直しあるから、そろそろ
すだち:そっか、じゃあまた
ひなこハケる
増田:やっぱかわいいよなー すだちがよくあの子とユニット組めてたよな
まあ一瞬だったけど
すだち:ま、仕方ないよね
増田:でも、すだちがひなちゃんを誘ったおかげで
ひにゃんが生まれたってことだよな
すだち:うわー私すごーい
増田:まあそのすだちを引き込んだのは俺だから、結局俺がすごいんだけど
すだち:関係ないでしょ(笑う)
増田:(笑う)ああ、忘れてた、これ(パフォーマンスに使うすっぱいもの)スーパー意外と遠かったー
すだち:ありがと
増田:足りなくなるならちゃんと買っとけよ
すだち:ごめんごめん
増田:まあなんか一番すっぱそうなやつ選んどいたよ
すだち:増田くん
増田:なに
すだち:実はすだちって、あのすっぱいすだちじゃないんだよ
増田:それ前もきいた
すだち:そうだっけ
すだち、すっぱいものを口にする
照明変化
〈すだちの家〉
すだち:すっぱ!!
増田:はい、そっから歌う
すだち:むりーーー
増田:できるできる
すだち:てか増田くん知らんかもしれんけど、私のすだちって鳥の巣立ちの方やからね
すっぱくない! ばさばさーって、かっこいい方
増田:いや、お前に似合っとるのはすっぱい方やろ
すだち:・・・こんなのアイドルじゃない!
増田:そんなこと言ってる場合じゃないだろ
ソロになってから人気落ちてるし
ここでがんばんなかったらやばいよ
すだち:そうだけど
増田:・・・すだちはさ、アイドルやってて楽しい?
すだち:・・・うん
増田:続けたい?
すだち:・・・うん
増田:すだちはアイドル続けて、どうなりたい?
すだち:・・・もっと人気になりたい
増田:じゃあ、俺がひなちゃんの代わりに一緒にいてやるから
まあ、俺はステージには立てねえけどな
すだち:(笑う)
増田:でもすだちの方が人気だったのに、
なんでひなちゃんが辞めたら客減ったんだろうな
すだち:ひなちゃんは本当のアイドルだから
増田:どういう意味
すだち:アイドルって、綺麗で、遠くて、触れないの
みんなはひなちゃんを見てるけど、触れない
その代わりに私に触るの
増田:・・・
照明変化
すだち、すっぱいものを口にする
すだち:(無言ですっぱそう)
増田:おい、また足りなくなったらどうすんだよ
すだち:ねえ増田くん
増田:なんだ
すだち:なんか、今気づいたんだけど、今
増田:うん
すだち:私、増田くんと結婚したら「ますだすだち」やね
すだ、二個もある
増田:確かに
すだち:すごくない?
増田:すごいな
すだち:だよねー!
増田:じゃあ、結婚できないな
すだち:・・・そうなんだよねー なんか、ほかにいい名前の人と結婚しないと、いるかなー
増田:アイドルが結婚とか言ったらダメだろ
すだち:私のことアイドルって思ってる?
増田:アイドルだよ
すだち:ははっ、ありがと
まあ「地下」だけど
増田:地下の何が悪いんだよ
すだち:うーん
増田:(時計を見る)そろそろ控室入った方がいいよ
すだち:早くない?
増田:いつものライブとは違うんだからさ、ちゃんとしなきゃ
すだち:・・・なんかさ、前いたよね、マネージャーと結婚してめっちゃ叩かれた子、18歳だったかな、私より年下だー
増田:(片腕ですだちを抱きしめる、と思いきや背中を叩く)
すだち:いってー
増田:・・・いってーこい!
すだち:・・・いってーくる!
すだち、ステージに向かう
増田:(すだちの背中を叩いた手を見る)
社長:ごめん、遅くなった
増田:おお、ありがとな
社長:で、話って何
増田:うーん、やっぱ酒がいるなー、飲みに行こうよー
社長:だから夜は用事入ってるんだよ
増田:今夜のお相手はひにゃん?
社長:・・・
増田:ごめん、知ってるんだ、普通に噂になってるし
社長:・・・だりー、帰るわ
増田:別に責めてないんだ、心配なだけで
なんでそんなことするんだよ、ひにゃんも人気になってこれからって時に
社長:人気?
増田:人気だろ?今回のもほぼあの子が集客してんじゃん
社長:こんなしょぼい会場で三百人だ
結局あいつも地下アイドルの上位変換にしかなれなかったんだよ
地上にも出られず地下にも沈めない
増田:・・・それ、本人には言ってないよな
社長:言う必要ねえよ
増田:・・・
社長:あいつも自分でわかってるだろ
増田:・・・
社長:増田ってさ、なんですだちちゃんのマネージャーやってんの
増田:保護者代わりだって
社長:もし惚れてるならさっさと手出せよ、回りくどいことしてないで
増田:はあ?そんなんじゃねえよ
社長:あ、そう
お前、女の趣味悪いのかと思ってた
増田:・・・俺はただ、あいつがアイドルやりたがってるから支えてるだけで
社長:本当に?
増田:ていうのは
社長:すだちちゃん、本当にやりたがってる?
増田:・・・・うん
社長:ふーん(立ち去ろうとする)
増田:・・・ゆうすけ、やっぱり戻って来いよ
社長:まだそれ言う?
増田:やっぱりお前、無理してんだよ
芝居やってた時の方が楽しそうだったって
社長:別に楽しくなかったよ
増田:え
社長:あんな小さい劇場でどうしようもない芝居やっててもどこにも行けねえんだよ
お前もわかってるだろ
俺はこっちを選んだ、この仕事で上に行くんだよ、もうほっといてくれ
増田:でも今お前苦しそうだよ、とりあえず一回戻ってきてみたら
社長:そういうのやめろよ
増田:そういうのって
社長:お前のためって言いながら、自分の欲望満たそうとするの
増田:・・・
社長:今気づいた?
何にもわかってねえんだな(舞台を降りて立ち去る)
増田:・・・お前も一緒だろうが!(社長を追いかける)
音楽が鳴る
すだちとひなこ、向き合って鏡合わせのように最初のパフォーマンスをする
終